言葉の通じないシレン(2) 〜あーキップが買えない〜


 “パスポートを預けなさい”と言われたから、預けているのです。それを用があって返してもらうのになぜ10ドル?!こっちの10ドルは1万円の価値なんです。
「***!テン ダラー!」
あ然としている私に彼女は強い口調でいいました。まるで無賃宿泊でも疑われているよーな目。そんなはずはないのです。だって、昨日3泊分前払いしているんですから。じゃあ何?もしかして・・ここは現地人専用で、ガイジンは歓迎できないとか。大体フロントがないのはどう考えてもヘンでないか。昨日は知り合ったモンゴル人女性アルターが一緒だったから仕方なく?とか・・。私の頭は妄想でグルグル。
「テン ダラー!(早くしなさいよ!)」
一段と敵意に満ちた?声に、我に返る私。そーでした。ぐずぐずしてる場合じゃないのです。午前中で中国領事館は閉まってしまうのです。私は10ドルで、パスポートを取り返しました。
 しかし、この町での困難はさらに続くのです。

 「モンゴル語全然できないなら、駅でキップ買うの苦労するよー」
と言っていたのは、旅の途中、1ヶ月前にイスラエルで会った日本人。簡単にいくとは思ってないけど、しみじみ言われれば、不安がかきたてられる私。
「インドや中国よりも?」
「まあ・・そんなモンだけど、モンゴルは英語が全く通じないからねー、中国みたいに漢字もダメだし、顔もが似てるから“外国人優遇”してもらえないからサ」
『そりゃーそうだ・・』
ますます不安が深まり始めた私に、その人は、手数料払って代行してくれる所と、駅で頑張る必殺の武器を教えてくれました。その武器とは・・、パスポートの表紙の菊印。それを係員わざとらしく見せる。言葉ができないんなら、外国人料金になるのは免れない。なら、テキに日本人であることをアピールするんだと。そうすれば、水戸黄門みたいにハハーとなるから・・。まあ、それは冗談だけど、長蛇の列の後ろにいても、優先してくれるって、と。

中国ビザを思いがけなくすんなり取得した私は、今日中に、列車のキップを取ることを考えました。またの機会にすると、またあのホテルの女性とパスポートの件でヤな思いをするのを避けるためにも今日・・と思いました。同時に、時間が限られてくると、代行してもらう道を、楽する道を選んだワケです。
 そうして、イスラエルで教えてもらった場所にたどり着くと、掲げられた <2Fインターナショナル トレインチケット>という英語の看板。きっと英語が多少通じるに違いない、とホッ。しかし、そんな私をあざ笑うかのように、階段を上った2階には、銀行と郵便局と空き部屋べや。仕方なく、その銀行に
「あのー・・トレイン チケット・・」
と聞く私。
「****!(ここは違うよ!駅、駅!)」
『そんなー・・』
 というわけで、仕方なく、歩いて歩いて駅。正確に言うと駅の前にあるプレバブ。我よ我よと窓口に殺到しているモンゴル人の後ろで様子を伺っていました。菊印、菊印・・と言われたとおり、パスポートをヒラヒラさせてみます。が、反応ゼロ。目に入ってもだーれも何も変わらないのです。おとなしく自分の番を待って、やっと窓口のおばちゃんとご対面できて、「ベイジン(北京)・・(いつありますか?)」
すると、ここは違う、あっち!と指さされ、あっちに行けば、また同じく、ここじゃない、とたらい回し。やっと帰ってきた違う言葉は
「北京行きは、あさってと6日後。でも席はない」
“ない”で話を終わらせんでよ!あるのはいつですか?北京がないなら、中国の他の町、そうどこでもいいんです!と食らいつく私。(今思えば、広い中国、どこでもいいと言われたって困りますよねー)当然、相手にしてもらえず、後ろの人に押されて、窓口から追われてしまいました。あーアルターがいれば・・
 彼女が“困ったことがあったらここに連絡してくれたメモを引っぱり出しました。さあ、電話、電話っと。しかし、公衆電話というシロモノをこの国で見たことがない。あって当たり前の駅にも、その周辺にもないのです。仕方なく、また町へ向かい、さんざん探して40分。デパートの隅っこでやっと見つけました。しかし、そこがまた長蛇の列・・。
やっと手にした黒電話に向かって、
「エクスキューズミー アルター プリーズ・・」
しかし、返事はノー!げー!
 しかし、次の瞬間、予想外の音が・・
「アー ニホン ノ ヒト?」
受話器から、たどたどしい日本語がこぼれてきたのです。そして
「ドウカシタ?」と優しい言葉。朝から頭が混乱しているだけに胸がキューンとなりました。駅に行ったけれど言葉が通じなくてキップが買えないというと、○○ホテルにある旅行会社がやってくれると、教えてくれました。
 そして、またまた、そこを探して歩くこと40分。しかし、また、代行はできない、と言われるのです。

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