私もインドで目が覚めた(8)〜心置きなく・・さよならインド 〜


 「空港まであとどのくらい?」
「んーあと10キロぐらい」
ゲェ・・よーするにまだ半分も走ってないんだ・・。私には、飛行機の時間という大切な予定があるのです。ぐずぐずしてられない・・!頭に血がカァーと上っていくのを感じました。このポンコツ!
 おやじはヌーボーとして、何度もエンジンをかけては、リクシャをあちこち触ったりしています。時間は経つばかり。そして、どーにもならなくて、近くのガソリンスタンドまで押して持っていく始末。
(ブッコワレてるなら、ここからどーすれば? なんでこの道にはタクシーの1台すら走ってないの! やったことないけど・・ヒッチハイク? 止まってくれるもの?・・)焦りで顔面が固まる?私。

 しかし、結論を言えば、ナント!ガス欠。おまけに
「ボクお金なくって、ガソリン入れられないよ〜」
とこの場になって甘える、許せんおやじ。
「ガソリンぐらい自分で入れなさいよ!そして早く走ってよ! そーじゃないとお金払わんよ!」
ホントになんてヤツのリクシャに乗ってしまったんだろ・・と腹が立つばかり。
 とにかく、再出発。思ったより時間を消耗しています。これで間に合わなかったら・・帰りのチケットはパァ。空港へまっすぐ、止まることなしに走ってくれさえすれば・・と神様仏様・・。
 ヒトはそんなキモチでいる時に、
「100ルピー」
と振り返っては手を出すおやじ。そしてその都度スピードをゆるめるます。
「さっさと走ってよ!振り向くなァ!ちゃんと着くのが先決でしょ!」
 ようやく空港が見えてきました。しかし、おやじがリクシャと止めたのは、空港ターミナルの入口前の広いロータリーの手前。
「中まで入ってよ」
「ここまでしか入れない」
とおやじ。そしてニャッと手を出すと
「100ルピー!」
絶対50ルピーしか払わん!、と決めていた私は、お金を渡したら、一目散に空港内に入ろうと考えていました決心。しかし、この場所、入口が遠すぎる・・。ロータリーを歩く間に、このおやじなら、追いかけきそうです。
 しかし、50ルピーが少ないはずはない! 距離計算だと30ルピーぐらいで行けるところなんだ。そう・・おやじに負けるものか!と覚悟を決めました。
   まず、私は、判別しにくいよーに、50ルピーを手の中でくしゃくしゃに丸めます。座席から降りてから、おやじに握りこぶしを出し、お金を渡すと同時にローターリーへ猛ダッシュ。何かおやじが言っている!?「足りないゾ!」とでも言ってるのだろーか? とにかく急げ!と走る私。随分走って、振り返ると、おやじはまださっきのとこ。ホントにターミナル敷地内には入れないようです。私はやっとほっとしました。
 オートリクシャで遠くまで行くモンじゃない!ですね。これで、あと3日居たいなんていう“心残り”など無くなりました。さあ・・帰れるゾ! 私は心置きなくインドをあとにするのでした。

 インドは、私に、余計な囚われを捨てろ捨てろ!と教えてくれたような気がします。捨てることってなかなかムズカシイですよね。自分が生きてきた中での常識?こだわり?そして執着する心・・。捨ててしまえば、また得るものがあるのに・・つい抱え込んでしまうのですね。
私はこのインド以来、途上国を旅するのが大好きになりました。旅で何かを得ることより、捨てて、空っぽになって戻ってくる、それが私にとって元気のクスリになるみたいです。
 このインドは、6年も前になりますが、スッゴケた'思い出ほど、ありありと浮かんできます。そしてこの経験が、'94年の世界一周の時、大いに活きてくれました。言葉も文化も宗教も違う途上国を歩き、思い通りにならない中で、こーはできないか、あーもできないか、と智恵を振り絞って?考えながら、前進できたからです。楽しいことばかりではありませんが、どれも大切な出来事。意味があると思えるのです。
 たまには、捨てる旅、いかかでしょうか・・?

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