自称ガイドとあやしいじゅうたん屋(後編)


 「そうそう・・さっきの話、今晩7時頃どう?」
じゅうたん屋のおやじは、周りを気にするように小声で言いました。
そうだ・・彼のホームパーティに誘われて、まだ断ってなくて・・、その瞬間、ある考えが浮かんだのです。
 「今晩かあ・・私ちょっと疲れててどうしよう・・。ポルトガルから、ずーっとバスと船で移動して、やっと着いたのよ」
「そりゃー長旅だね。元気を取り戻さなきゃ」
「今の内、宿に戻って休みたいな・・」
と言ってみると、おやじは快く「その方がいいね」と返事。出口まで見送ってくれました。しかし、無事脱出を喜ぶヒマはなく、事件はまだ続いていたのです。

 そう、この店に私を押し込んで、そそくさと姿を消した“食堂のおじさん”が待ち構えていたのです。
「ねえ、じゅうたん、いいのあったでしょ!?」
とスリ寄るおじさん。
「どれも綺麗だったわ。でも私には必要ないから」
「えっ! じゃあ、買わなかったの?」
「うん」
「ホントに?1枚も?」
「だって“見るだけOK”なんでしょ」
その瞬間です。あ然とするほど明確に、おじさんの顔から、微笑みが消えていったのは・・。
『ははあ、この男って客引きなんだ。でも買ってないから手数料貰えないからって、ここまで顔色変えるだろうか?』
私の頭の中は、驚きと何とも言えぬ不安でグルグル。土産物屋と紹介手数料の話は、よくあることなのに。 おじさんは無言のまま、“ついて来い!”という態度でスタスタ歩き始めました。スキを見て逃げようと何度も思ったのですが、おじさんはしょっちゅう振り返るし、いつまでたっても似たようなあやしい路地ばかり。失敗は取り返しがつかないように思えました。それに、路上に座り込んだたくさんの男たちの異様な視線。マトモな道に出るまで我慢するのが賢明に思えたのです。

 ふと、急におじさんが振り返りました。
「そうだ!・・国際電話かけたいって言ってたよね。案内するよ!」
しかし、行ってみると時間外で終了。
「そうだ!両替だ、両替! 明日あさっては土日だよ。ちゃんとたくさん持ってるか?」
手数料が貰える所に連れ込む気なんでしょう。
「両替する所、ここから遠いの?」
「近いよ。駅のそばだ」
『駅・・駅の近くまで行けば、何とかなる・・』
私はこれがチャンスだと肝に命じました。
 そして薄暗い両替屋を出ると、おじさんは満面の笑顔でこう言ったのです。
「色々案内してあげた。キミの心付けが欲しい」
と。
『ああ、そっか・・、彼こそまさに、悪名高い“自称ガイド”だったんだ。出会った食堂が、自分の店であることも、自分の“ファーザー”のじゅうたん屋なんてことも、全部でたらめ。とにかく店に入れてしまえばおしまい。あとは、店の強引な商売に任せて自分は消える。随分時間が経ち、何枚買ったかと金勘定しているところに、私は店のおやじに見送られ出てきた。が、ナント1枚も買ってない。“買うまで出られない”はずの店なのに・・と頭に血が上って、ついつい本性がむき出し。どうにかして、私から少しでも金を巻き上げる方法を無言で考えてた、ってとこ?』

 これが私のアフリカへの第一歩、なかなかの勉強でした。注意していても、カモをねらう彼らの方が、いつも一枚上手かもしれません。だからと言って、すべての人を疑ってしまっては、危険は減っても、いい出逢いも遠ざけてしまいます。冒険は昼間に、もしもを考えて逃げ道(出口)の確認、“何か・・おかしいーな”という言動は要チェック、様子をしっかり見て、冷静になることです。“直感”は大切な心の声、言葉が不自由であればあるほど、耳を傾けて下さい。それから、小さな失敗は成功のモト。笑い飛ばし、前向きに応用して、次なる出逢いを期待!しましょうよ。

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