ラスト・ドライブ

今宵、Henessy V.S.O.P.を開けてみた。
年代もののコルクはやけに脆くて、栓があく前に砕けてしまった。
100均のお茶パックをフィルタ代わりに、ショットグラスに注ぐ。

素晴らしい芳香。
ストレートで口に含んでも、突き刺さってこない、まろやかさ。
後からほのかに感じられる甘み。
高級ブランデーの名に恥じない、見事なコニャックだ。

いったい何十年前から、封をあけられるのを待っていたのだろう。
校長先生だったおじいちゃんは、こんな洋酒をいろんな人からもらって、
座敷の書棚にきれいに並べていた。
でも祖父自身はそんなにお酒を飲まない人で、飲んだとしてもビールが好きだったから、
高級な洋酒はほとんど人にあげてしまって、
残りはずっと、棚の中に眠らせたまま。

私がいま、おじいちゃんの形見となった、このヘネシーをあけることを
過去のおじいちゃんは、見通していたのかな?

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2009/4/20(月)
ラスト・ドライブ

あれは、まだ18の頃。
車の免許を取ったばかりだった私は、運転の練習に、よくこの道を走った。

自宅から入鹿池へと向かうドライブルート、
助手席には、いつもおじいちゃん。

「今日」は、この道をふたりで走る、最後の日。
おじいちゃんは隣ではなく、ひとつ前の車に乗って、走ってゆく。
クンシラン、ツバキ、エビネ、ミヤコワスレ、
好きだった庭の花に囲まれて。

父がおじいちゃんをポン、ポンと2回叩いて、
私はそのまま頭を下げて、
ゆっくりとシャッターが下りるのを見送った。

帰り道、
この道をふたりで走るのは、いや、最後じゃないな、と確信した。
ほら、ガラス窓の向こう、
ふわふわと、空に、風のどこかに、
想いがあれば、すぐそこに、きっと。
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この週末は、おじいちゃんの四十九日です。

最近は線香にもいろんなのがあります。
いい香りの線香を焚きながら、念じていると、心が落ち着きます。

最初のうちは、写真を見るとどうもダメでしたが、
GWの帰省からは、笑ってビールをお供えできるようになりました。

私はこれまでもとても幸せでしたが、これからも幸せに生きていきます。


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