「・・ / / / ・・ ・・ ○::」

 1

 ひさしぶりに見る、真っ青な空。
「いってきます。」
 そう言ってグライダーに乗ったぼくの心は、期待と不安でいっぱいだった。なにしろ、十二才のたん生日 に、記念として一人で旅行をしたらどうか、という父のアイデアで始まったこの計画、ぼくはまだ一人でグライダーに乗ったことも、ましてや一人で旅行をするなんてことなかったのだ。それをいきなりするなんて、無理かもしれなかった。
 でも、ぼくはこの計画を楽しみにしていた。ぼくはもともと探検が好きな方だった。たまに、一人でどこかを探検している夢を見たりしていた。それが実現するなんて、これ以上うれしいことはない。
 とにかく、きのうはマニュアルを一通りよんだ。そうじゅうは完ぺきなはずだ。
 よし、出発だ。
「着陸位置、北緯44°東経142°、自動そうじゅうタイプ1セット。」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「0、発射!」
ボンッ、ボボ――ッ
 こうしてぼくの旅は始まった。そして、これがぼくの大きな旅の始まりだったのだ。


 2

 そろそろ青森が見えるころだろう。
 少しコンピューターから手を放し、まどから下をのぞいてみた。
「これが青森市か。森みたいなところはりんご園かな?さすがに多いなあ。 おっ、海が見えてきたぞ。青森湾か?陸奥湾かな?」
地図を開いてみた。夏泊崎を境にして分かれている。あそこがそうだろう。とするとここは……
「ビ――ッ、ビ――ッ」
 ん?何だ?風速計が鳴っているぞ。すごい風だ。このグライダーはたえられるのか。
 と、思ったしゅん間、機体は回転するように横に流されていった。


 3

「ど、どこだ…?」
 ぼくははっと目を覚ました。辺り一面野原だった。ところどころに、変わったむらさき色の花がさいていた。着陸したときに飛ばされたようで、五メートルぐらい向こうにグライダーが見える。 機体は何とかうまく着陸したようで、損傷はあまりなかった。しかし、メインコンピューターがこわれていた。自然復旧装置がはたらくまで、あと五日はかかるだろう。
 別に、ここで五日間じっとしていてもいいのだが、何となくぼくは、東の方向に歩きだした。
 だんだん木が多くなってきた。前には、どろどろとマグマが滝のように流れ落ちていた。前に、どこかの火山の爆発のときに、テレビで見たことがあるけど、本当に見るのはこれが始めてだった。
「向こう岸へは行けないのか?」
と、その時だった。
頭上から丸いものが落ちてきた。
それは、地上で半分つぶれると、また、はね上がって、ゴムまりのような形をしていた。
色は、オレンジ色をしていて、中の方は赤っぽく見えた。
「なんだ、これは。」
とっさにナイフを取り出したが、めずらしもの好きのぼくのこと、少し様子を見てみることにした。
 その物体は、身ぶり手ぶりから、何か話したがっている様子だった。だが、ぼくにはそれがまったく分からず、しかたなく、ぼ――っと立っていた。
 すると、ぼくに話が通じていないのが分かったのか、物体がとつぜん横にのびた。15mほどあるだろうか。ぼくは、その橋をさわった。
「これなら乗れるぞ。」
ぼくはその橋にのり、マグマの滝をようやくこえた。この物体はぼくを向こう岸に行かせようとしているのか?
 とにかく、これには、ぼくとの敵意識はないのだろう。安心はできないが、まず危険はないだろう。
 そして、林を五分ほど早歩きでぬけると、ぱっと視界が広がった。後を見ると、オレンジ色の物体がはねながらついてきた。
「いったい何なんだ、これは。」
それが、ぼくと物体の出会いだった。


 4

 やたらに歩いていても意味がないので、ほらあながポッカリとあいている岩山に向かった。
 中は、まっくらで、たまに天井から水てきがポツン、ポツンとおちてくるような所だった。しかし、少し歩くと、パッと周りが明るくなった。
「すごい大きさだ。」
よく見ると、その明かりのもとは、ぼくの体よりも、二倍も三倍も大きいろうそくだった。
「どうやってつくったんだろう。」
ぼくはしばらく考えていた。
「これはだれかがつくったはずだ。」
真剣にそんなあたり前なことを考えたので、思わず笑ってしまった。
 しかし、ぼくはそこであることに気づいた。
「ということは…この島にはだれかが住んでいたはずだ!」
これは、大きな発見だった。ますますおもしろくなってきた。そして、まわれ右をして、一直線に出口へ向かった。

そのと中、ぼくは何か、リュックサックが重くなったような気がした。


 5

 岩山からかけ出したぼくは、その足で北東の方へ走った。何かあるような気がしたからだ。
 すると、やはり、あった。
 巨大ないん石が、落ちたのだろう。地面には大きな穴があいていた。その下を見ると……
「あっ。」
ぼくは思わず声を出してしまった。家だ。
家らしきものがいん石の下につぶれている。
「たしかにだれか、住んでいたんだな。」
ぼくは、そう独り言を言って、てくてくと南の森の方に歩いていった。
 もう、太陽は西にかたむいていた。
「よし、ここの森で一ばんを過ごそう。」
ぼくはそう決めて、そこにテントをはった。
 まだ、あのオレンジ色はついてきていた。


 6

 始めてのテントばりだったので、少々おそくなったが、なんとかテントらしいテントができ上がった。
 ずっとついてきた、オレンジ色の物体をリュックサックの横において、ぼくはねぶくろに入った。
「この物体、ずっと『オレンジ色』じゃかわいそうだな。そろそろ名前をつけようか。ボールみたいだから、ボル、それともボムがいいかな……」
そんなことを考えているうちに、ねむくなってきた。
 満天の星が、きれいだった。


 7

 ぼくは小鳥のなき声で目を覚ました。ねぶくろから出ると、オレンジ色、いやボムが石でできたかけらをくわえていた。ぼくはそれを取り上げ、よんでみた。
「・・ / / / ・・ ・・ ○:: ??」
何が何だかわからなかった。しかし、ぼくはそれをリュックサックに入れた。なぜなら、何かなぞがありそうだったからだ。
 そして、テントの解体をはじめた。

 4/5ぐらいバラバラにした時だった。

 向こうから、ライオンのような馬のようなキリンのようなものが、もうスピードでかけてきた。
「に、にげろっ!」
ぼくはそれが敵かどうかも分からないまま、リュックを右手でつかみ取って走りだした。
 とにかく走った。何回も木にぶつかってころんだ。それでも立ち上がって走った。そうしているうちに、林を走りぬけ、川をとびこし、ヤシの木にぶつかりそうになった。
 急ブレーキをかけた。なんとか止まった。
――ボムは来たのだろうか。
 すると、ちょこんと頭にボムがとまった。
 安心して、ゆっくりと前を見た。すると、むらさき色の、ボムの色ちがいのような物体を見つけた。しかし、それはぼくのすがたをみとめると、かなたのほこらに、ものすごい速さで飛び去っていってしまった。
 ボムに会ったときから、何か色ちがいのものが現れるような気がしていた。名前は、バムに決めた。またいつか会えるかもしれない。
 ぼくが走っていくと、ボムがなんとなく元気のない様子で後をついてきた。
「バムとボム、なにか関係あるのかな。」
そう考えるしかなかった。


 8

 小川のほとりについた。
 走りすぎて少しつかれたので、その水をのんでみた。
「おいしい。」
つめたくて、意外においしかった。自然の水って、けっこうおいしいものだな、と思った。こういうのを清水というのだろうか。
今までのつかれが一気にふっとんだ。ボムものんでいるようだった。
「よし、出発だ。」
新たな気分で歩きだした。


 9

 だんだんと、あたりが暗くなってきた。まだ時計は四時二十分をさしているのに、どうしたことだろうか。
 その直後、ザーッとバケツをひっくり返したような、大粒の雨がふり出した。
「どうしよう。」
ぼくのリュックの中には、レインコートが入っていたはずだ。さっそくおろし、中を調べてみた。
「な、ない?」
おかしい。確かに入れたはずなのに。
 よく見ると、レインコートが入っていたはずのポケットの底が、やぶれていた。
 これでは走るしかない。
 頭にボムがおおいかぶさってくれたが、横なぐりのこんな雨には、全く効果がなかった。


 10

 雨は前よりもはげしくふりつづいている。
 1キロぐらい走っただろうか。あの水を飲んだせいか、少しもつかれない。しかし、服もズボンも、びしょぬれになってしまった。
 前方を見ると、宮でんのような建て物がちらっと見えたような気がした。
 ぼくはそこに向かって全速力で走っていった。

 ようやくついた。
 建て物の中にこしをおろしたぼくは、着がえをして、カンパンを食べながら、
「これからどうしようか。」
と考えた。外に出て、もう少し歩く手もあるし、ここで雨やどりをしていてもいい。でも、外に出ても、また服がぬれるだけだ。それより、この建て物を調べる方がいい。
 ぼくはリュックをもって、ろう下を歩いていった。一歩歩くごとに、ミシッ、ミシッとゆかがきしむ音がした。
 少し歩くと、地下へ降りる階段があった。ぼくは、その暗い階だんを、一歩一歩ふみしめながらおりていった。


 11

 今にもこわれそうな階段で、なんとか地下におりてきた。が、中はまったくの暗やみだった。
「明かりになるようなものはないか。」
と歩いていると、ボムが前に飛んできた。
 ボムはあのときのように、何か話したがっている様子だった。しかし、この暗やみの中でなぜボムが見えるのか。
 それは、光っているからだ。
 ボムの体は、うすいオレンジ色に光っていた。そして、その下には石版があり、その左上の部分は、われてかけていた。そのわれあとは、あれのわれあととぴったり一致していた。
「まさか。」


 12

 それこそ、今日、テントの中でボムがくわえていたかけらだったのだ。
 さっそくぼくは、ボムの光にてらされるリュックの中をさがした。
 あった。
 さっそくはめてみた。ぴったりだ。
 これには、なにか重要なことが書かれているはずだ。
 短い絵文字が、そこには書かれていた。
「まず、この絵は地球、次の絵はひびの入っている大地、そして半分になった地球の絵だ。それでこのかけらは、・を1、○を5、/を0によめば、・・ / / / ・・ ・・ ○::はつまり、2000229。」
なぜかすぐとけた。どうしてこんなにかんたんにとけたのだろう。この部屋に入ってから、なにかすごい力を感じる。そうだ。この部屋が、ぼくにこの文字を読ませているんだ。ボムもそのために現れたのか……。
「つまり2000年2月29日、地球に大地震が起こり、地球が半……!」
と中で声がでなくなった。今日は2000年2月28日だ。明日か……。
 ぼくは一階に飛び上がり、外に出ようとした。
 しかし、もう夜は来ていた。
 夜は危険だ。
 しかたがない。今日はここで休もう……。


 13

 そして、朝が来た。
 すみきった冬の空。
「いくぞ。」
ぼくは宮でんを出た。
ぼくの頭の中に、あの文字がよぎった。
「2000年2月29日」
急がなければ。
 川についた。
 向こうにグライダーが見えた。
 そして、その先には火山が……。
 火山こそ、地震の源。
 あそこへ行けば……。
 しかし、この川はわたれない。
 そうつぶやいて川を見たら、木箱が流れていた。
「これだ。」
思わずさけんでしまった。
箱を開けた。
「うわっ」
ものすごい光とともに、ぼくの体は消えるようにすいこまれていった。


 14

 気がつくと、さばくの中のオアシスにいた。
 これこそ、ワープというものなのか。
 ちゃんとボムもついてきている。
 上を見ると、火山があった。
 それを見上げて、
「あの高さでは、登れないな……。」
 そのとき、ボムがさわいでいるのが分かった。
 しかし、一秒おそかった。
 見る間に風にまかれ、ぼくは気を失った。


 15

 ドサッ。
「……」
「うっ……。」
 岩にたたきつけられたようだ。
 立てるか……、全身がいたむ。
 しかし、ここは、あの、火山だった。
 そして、ここには何かあるはずだ。
 目の前には、またあのような絵文字がかかれた、岩のとびらがあった。
「ついに……ついたか……」


 16

今度はすぐ分かった。
「・ ・ ∴ ○・ ・・ ○∴」
「113628」
そして、おどろいた。
「11時36分28秒?」
今は11時32分だ。あと4分だ。
 でも、なぜこんな時間まで分かるのか。なぜ……。
 とにかく、入るぞ。
 重そうな岩のとびらは、意外と軽く開いた。


 17

 中に入った。
 とびらから外のまぶしい光が流れこんでくる。
 今ぼくが立っているところはだんがい絶ぺきのがけの、その上に立っていた。そして、その下にはなにやら石でできた大きな箱があった。
 おりるしかない。
 がけのはしに足をかけたとたん、下にころげ落ちた。うまく着地できたが、岩にたたきつけられたときのきずがいたむ。だが、うずくまって、痛がっているひまはなかった。すぐそこには、マグマがせまっていた。
そして、ぼくの横には、石の箱があった。
 11時35分。あと1分か。
 マグマはもうすぐぼくを飲みこみ、石の箱をも飲みこみそうな場所まで来ていた。
 ぐずぐずしてはいられない。
 ぼくは石の箱の中に飛び込んだ。
 そこには、やはり石でできた、台だけがあった。
 すると、とつぜんボムがぼくの頭からとびおり、台の上のくぼみの中に入った。
 そのときだった。
 マグマが箱のとびらをとかしきり、中に入ってきた。
 それより一しゅん早かっただろうか。
 ボムがまばゆく光り、ものすごい音と爆風をぼくはまともに受けた。そして、火山の上の方にはねとばされた。
「ボムッ!」
ぼくはさけんだ。その箱からは
かがやく光線が発射された。
 そして……
ドガガガガガガガガガガガガガガガ……
 火山は爆発した。
 ぼくは近くの高原にふっとんだ。
 ボムはあの中で……
 そして、光線はあのときバムが去っていったほこらに向けて発射されていた。
 いや、ほこらからも光線は出されていた。
 ほこらも爆発した。
バ――ンッ、ガガガガ……


 18

光線はうすれていった。
「ボム――ッ、バム――ッ」
ぼくの声はさみしく山々にこだました。
「ボム、バム……」

そのとき地面がぐらついた。


 19

ぼやけた目にはグライダーがうつっていた。
島の中心部がはかいされたのだ。
そして、水位がだんだん上がってきた。
グライダーに、乗るしかない……。
「発射できるか……」
ブルルルッ ボ――ッ
「やったか……」
しかし、グライダーは海にでたところで降下をはじめた。

バッシャ――ンッ

ぼくの意識はうすれていった。


 20

「ソロソロ オキルジカンデスヨ」
 なんだ?助かったのか?
「ハヤク オキナサイ」
 ?

目をあけると、見慣れた家の屋根が見えた。

 夢だったのか……。

ぼくは目ざましのスイッチを切り、グライダーに乗りこんだ。
雲一つない快晴の空のもと、ぼくのグライダーは快いひびきを立てて飛び立っていった。


「いってきます。」


終わり





※最後の「屋根」は「天井」の間違いですね。

2000年2月29日にしたのはワケあってのことだったんですが……ちょっと誤解していたようです。
400の倍数の年は、うるう年が変則になることは知っていたのですが、 2000年はうるう年でないものと思っていたのです。
(正しくは2000はうるう年、2100,2200,2300は通常)
「実際に存在しない日付」→「夢」という仕掛けだったのですが……残念です。


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