1998年9月15日(祝)


その大きさだけが、いまも心の隅に残っている。
テレビ番組の収録風景。赤、青、緑に光を放つビー玉を、女の子の胸の谷間めがけて転がし、入るか入らないかを競うゲーム。
水着姿の女の子たちが、真っ白なスタジオに色とりどりのアクセントを添えている。
ビー玉を胸で受け止める役の女の子は、次々と交代してゆく。数台のカメラが回るなか、ピンクのビキニをかわいく着こなしたその子が規定の位置についた。
水着がなければ、垂れ落ちてしまいそうに大きな胸。
そして、文句の付けようがないほどにかわいいルックス。
僕の目は、そんな彼女に釘付けになった。
ルビーのように、暗赤色の輝きを秘めたガラス玉を拾い上げる。大きさは普通のものの3倍ほどで、手にした指にずっしりと、確かな重みが伝わってくる。
僕は彼女の胸に狙いを定めて、ボーリングのときのように腕を大きく振り、そして、まっすぐに投げ出した。
真っ白な床の上を、僕の投げたビー玉がごろごろと転がってゆく。
ピンクのビキニの谷間を目指し、ごろごろごろと転がってゆく。
周囲より、一段低いところにしゃがみこんだ彼女の胸へ、赤いビー玉は転がり込み、
そして、やわらかく白いその身体に少しだけめりこんで、止まった。
彼女はにっこりと微笑む。

 ・ ・ ・ ・ ・

僕は彼女の身体に触りたくなった。
他の女の子の視線など気にも留めず、僕は彼女の前に立つ。
僕は司会者だった。
彼女が肩から、水着を外す。ピンク色の布地が、白い床にすとんと落ちた。
照明は控えめになり、スタジオ内はセピア色に、彼女の肌は褐色に見えた。
あまりの大きさを支えきれず、下を向いていた胸が、彼女自身の両手によって左右から圧迫され、窮屈そうに閉じ合わさっている。
あまりに魅惑的な光景だ。
初めて目の前にする女の子の胸は、聞いていたとおり本当にやわらかそうで、なにか、気持ちよさそうだった。
僕は彼女の身体に触れることにした。
背後のカメラを意識して、「ビー玉を胸にはさんで落とさないようにするゲームだ」と偽った上、右手をすっと、彼女の谷間にしのびこませる。
「あっ☆」 声を上げ、いたずらっぽく上目づかいで僕を見る彼女。
身体と身体が、もう少しで触れ合いそうな距離。女の子のあたたかさが、服を通して肌に伝わってくる。
僕はもっと、彼女と気持ちを通わせたかった。
奥の方まで腕をすべり込ませ、一方、着ていた半袖シャツの袖口を、敏感なところにさわさわとあててみる。
「あんっ」 彼女は、いっぱいの笑顔を僕に投げかけてくれた!
力の抜けた右手の指から、ルビーの輝きが音もなく、床に落ちた。


なぜだろう、その感触だけが思い出せない。
僕はベッドの上で目を覚ました。うっすらとグレーのかかった、水色の秋空が窓の外に広がっている。
今日も学校。
ぼんやりした頭に、訳も分からず気合いを入れて立ち上がる。

どうしてあんな夢を見たのだろう。本当に久しぶりの、いい夢だった。
いつも恐い夢、嫌な夢、辛い夢ばかりなのに。
子供の頃に何度も見た夢。いなかの公園、やさしい夕陽の輝き、オレンジ色の世界。
公園に入っていく僕。ジャングルジムの上から、「地球儀」の上から、
やさしく声をかけてくれる、男の子、女の子。
「遊ぼうよ」
ポジティブな夢で、覚えているものはこれくらいだ。
あとは、ホラー映画も顔負けの惨事、この世のどんなお化け屋敷にも勝る恐怖が支配する、
深い闇の世界だけが、真夜中の僕の居場所だった。
10年あまりが過ぎ、大人への階段を上り始めたいま、
夢を見る回数自体は極端に減ったが(疲れのためか、熟睡できるせいだろう)、見る夢の内容はそう変わっていない。
それが今日、「見たい」夢に変わった。
現実逃避なのかもしれない。アクセントのない、日々の生活に対しての。
・・・だが、こういう考え自体、あまりにも贅沢だと思うときもある。
楽しいことだって、ないわけじゃない。ゲームをしているとき、チャットをしているとき、
あるいは、M村とたわいのない話をしているとき。他にも、数え上げていけば相当なものだろう。
ただ、性格的に問題があるのか、
あまり毎日を、楽しく生きているとは思わない。贅沢な話ではある。
そういえば以前、自分の性格が人と異なっていることを実感した出来事があった。
秋の学園祭のとき。僕のクラスは「豆腐」というテーマで研究発表を行い、そして見事に失敗した。
僕は中学から、高校2年生まで5回の学園祭を経験したが、クラス発表が「成功した」のはおそらく1度だけで、
それゆえに、それが楽しかったのも1回だけである。「結果こそすべて」だという考えを、競争意識とともに植え付けられてしまったのかもしれない。
しかし、1週間後行われた反省会で、集まった生徒たちに先生が意見を聞いたところ、
驚くべきことに、僕を除く6名全員が「楽しかった」と答えたのである。
「プラス思考」といえば聞こえはいいが、僕はどうもこういう感じ方になじめない。
だから、毎日があまり楽しくないのは、ただ自分だけのせいなのだ、という結論に達しているのである。


チャットが終わった午前3時、電気を消し、ベッドに転がり込んだ僕は、動かない天井を見ながら、1Pをすべきかどうか迷っていた。
このごろなぜか、あまり1Pしたい気分が起こらないのだ。
少し前までは、1日3回・4回、時には5回ということさえあったのに、
今週に入ってからは、1回しかしない日が続いている。
少なくともこのホームページを開いて以来、こんなに性欲が落ちたのは初めてだ。
半年前の僕がこの文章を読んだとしたら、きっと別人の話だとしか思えないだろう。
邪念無く勉強に打ち込むためには好都合なのだが、あいにくこのごろは勉強意欲もあまりわかない。
何に対しても、意欲が失われているみたいだ。おそらく、生きることにさえ?
いや、別に変な心配をしていただく必要はない。
ただ、自分の意志で、日々を楽しくしていこう、言葉を換えれば老人のようだが、
「生きがいのある」日々にしようという、積極的な姿勢がもてなくなってきたような気がするのだ。
(そう、やっぱり自分のせいなんだよね)
流される日々。それは初め、楽な生活のようにも思えるが、
実際経験してみれば分かるとおり、秋の一日にその流れは冷たすぎる。
面白みのない生活を、癒やしてくれるものこそ、1Pだったはずだが・・・
いまの僕にはむしろ、チャット・・・姿の見えない人とのコミュニケーションの方が、ずっとよい薬になってくれるようだ。
今までの1Pではもう、そんな僕に何の楽しみも与えてくれない。
そう、誰かそばにいてくれたら・・・たとえ言葉がないとしても、すべて分かってくれる女性が、
やさしく包んでくれるなら。
眠さで頭が朦朧とするなか、左手を胸の上にのせる。
パジャマの上から、僕の一番敏感なところを、ゆっくりと、やさしく、丁寧にさわってくれる。
?? ・・・ああ、そうか、「あの人」がさわってくれているんだ・・・ほとんど機能の停止しかけたコンピューターが、そんな都合の良い解釈をしてくれる。僕はとても満ち足りた気持ちになった。
立てた爪が、その部分を行ったり来たりしている。何かが頭の中でとけていく、ほぐれていくような錯覚をおぼえる。
−− あ・・・もっとして。
「あの人」にかわいがってもらううちに、僕の右乳首はだんだん固くなってきた。
「ふふ・・・こんなに固くして・・・本当に乳首が感じやすいのね」
−− うん・・・だから、もっと触って・・・
下半身に、じゅわっと何かがこみあげてくる。あん、もうダメ!
僕の本能は、上半身から継続的に送り込まれてくる甘い快楽に応じきれず、びくんと腹筋をけいれんさせた。
気がつくと、今まで仰向けだったのが横を向いてしまっている。乳首を愛撫されることに耐えられなくなったのだ。
−− ねえ、もうあそこ触って・・・ もういいでしょ?
僕の上になって、やさしい瞳で見下ろしてくれている「その人」にお願いしてみる。
「うふふ・・・ダメ。まだ、あそこは触ってあげないから。もっと気持ちよくなってからでしょ」
−− うん・・・ごめんなさい。
時間の感覚がなくなるほど、永遠に続くかのように思われた胸への愛撫。
指の腹でやさしく、しっとりとなぞってもらえるかと思うと、立てた人差し指の爪で、かゆい所をかくような激しい甘美感が押し寄せてくる。
触られた数秒後にはもう固くなってしまったあそこ。僕は何度か我慢できなくなって、じれったくなって、
身体をびくびくっと震えさせ、ああっと声を震えさせ、そして時には身体をよじり、熱く尖ってしまったものを、ベッドに押しつけようともがいた。
でもそのたびに、「あの人」がやんわりと叱ってくれる。 まだダメ・・・
逆らえない。
私が触ってあげるまで、我慢しなきゃダメ。
もう右の乳首は快感の海に溺れ、感じ方もピークを過ぎてしまっていた。
−− ねぇ、左も、お願い。
左手が去り、「あの人」の右手がお願いしたとおりのところに降りてくる。
んん・・・ 左の乳首は、右のそれに比べて感度が鈍い。
それでも、「あの人」がいつくしむように、やさしくやさしく撫で上げてくれるから、
またどうしても、ぞくっ、ぞくっと感じてしまい、びくんと身体が跳ね上がってしまうのを止められない。
−− ああダメ、ダメっ! もうダメ。ダメ・・・お願い・・・
涙目で、声にならない声で僕が訴えかけると、「あの人」は手を止めてやさしく微笑む。そして・・・
「じゃあ、うふふ。  してあげる」
「あの人」は僕のパジャマの下を脱がし、ためらわずにパンツさえずらしてしまった。
あ・・恥ずかしい。僕はもう本当に触ってもらいたくて、どうしてもしごいてもらいたくて、
おかしくなってしまいそうな気持ちだった。「あの人」に、そんな心の中まで見透かされてしまったみたいで恥ずかしい。
顔が赤く火照ってしまったのは、そのためなのか、それとも身体の表面から際限もなく浸透してくる、うずくような気持ちよさのためなのか。
女神さまの手が、僕を一番気持ちよくさせてくれるところを静かに包んだ。
そのまま、ゆっくりゆっくり・・・1秒に2往復くらいの速さで、上下に動かしてくれる。
握力は弱く、あふれ出てくるほどの快感はない。けれど、女神さまは徐々に僕の身体を宙に浮かべていく。
乳首への愛撫は、もちろん続いている。茎の部分だけを静かに包み、消え入るようなスピードで動く女神さまの手。
もう、あなたのことしか考えられない。
完全におかしくなる。あの人の名前を連呼し、息を乱れさせ、うう・・・と知らぬ間にうめき声を上げる。
女神さまは気まぐれで、僕の先っぽをときどき手のひらで擦り上げたりしていじめてくる。そのたびに身体が宙へ浮く。まるで僕の反応を楽しんでいるかのように、女神さまは微笑む。
不思議と、出したいとは思わなくなる。このまま一緒に、ずっと永遠にこの世界で浮いていたい。
あそこの内部が収縮して、とろっとしたものが女神さまの手のひらを濡らす。
ぬるぬるした感触。先っぽが粘液に包まれる感触・・・そう、女神さまは、とうとう身体のなかに僕を導いてくれたのだ。
とろとろしていて、生命そのものの温かさをもった、内側の世界へ僕は同化をはじめた。
女神さまが、僕の上で胸を躍らせ、身体をくねらせている。ショートカットの髪はさらさらと揺れ、顔は微笑みをたたえながらも、快感に侵されてこの上なく魅惑的な表情で乱れていた。
(あ・・・ベッドの上では乱れてしまうって、本当なんだな・・・)
身体中で、彼女のことが欲しくなる。彼女も僕の気持ちを汲み取ったのか、あるいは自分が気持ちよくなりたいという欲求のためか、僕と一緒に、だんだん腰の動きを速めていってくれる。
あ・・・彼女と一緒になれそう・・・どんどん身体が浮いてゆく・・・う・・・う・・・
両脚に力が入り、腰がベッドから離れる。彼女とつながっている部分が濡れた音を立てて発熱する。
二人の動きが速まる。すべてを絞りとられてしまいそう・・・
膝の方まで、きゅうっと酸っぱいような快感が走る。もう・・・ううっ、うううっ!
手のひらに温かいものを感じた瞬間、僕はまたあの人の名前を口走っていた。
女神さまは僕の上で、僕のすべてをうけとめ、そして消えていった。
いつものように、やさしく微笑みながら・・・

僕が現実世界に戻ってきたのは、それから3秒後だった。
明るいだけの電気を灯し、出てしまったものの処理をしながら思うこと。
女神さまは、永遠に僕の目の前には現れてくれないけれど、きっと、いつも一緒にいてくれる。
・・ 僕はひとりじゃないのかもしれない。

インターネットという電子の大洋で、偶然出会った水滴と水滴。
その海が、もしも気持ちの通いあう、温かいものであるならば、
小さな水滴は、人の心の中で女神へと姿をかえる。
目を閉じた僕は、小さな声で、「おやすみ」を言った。
久しぶりの良い夢を見たのは、それから何分後のことだっただろうか。





次を読む  1P日記の目次に戻る