1998年5月25日(月)


卒業アルバムに使う写真を撮るということで、クラス全員が放課後の教室に残された。
撮影は番号順。つまり名前の五十音順である。「む」である僕には、5時になるまで順番が回ってこなかった。
勉強をしようにも、集中できる環境ではないし、話をして時間をつぶそうにも、友人は撮影を終えて次々と家路についてしまう。
何もすることがなくなった僕は、隣の教室に移動してみたり、単語集を見ながら、覚えられない英単語をひとりで口に出して言ってみたり、 そうこうして鈍足すぎる時間と戦っていた。
髪をセットしなおし、気合十分の態勢で撮影に臨む男子たち。
彼らのもっているような意気込みが、僕にはまるで無かった。
彼らはどうして、かっこよく写真を撮ってもらいたいのだろう。
一日の授業に疲れた僕の頭は、ひどく冷めた考え方しかできないようだった。
男子校の卒業アルバムか・・・大して重要なものではないな・・・
僕の順番が回ってきた。
学校専属のカメラマンが、慣れきった調子で僕に指示を出してくる。
「そこにしゃがんで。そう、レンズの方を向いて・・・はい、スマイルね、そうそう」
“スマイル”? いったい誰に向かって? 僕は何とも言えない抵抗を感じた。
だが、ここで彼の意図に反すれば帰りの時間がますます遅くなるだけである。
僕は慣れない作り笑いを強いられた。空しいシャッター音。任務は終わった。

校舎を出る。こんな日にはとても、そのまま校門をくぐる気にはなれない。
別棟のクラブボックスへ足が向かう。僕にとって、「校内のオアシス」という表現がぴたりとあてはまる空間だ。
ただ今日は、もうこんな時間である。おそらくは誰もいないだろう。
大して期待はせずに、部室の前にたどりつく。意外にも鍵はかかっていなかった。
重い扉を開けるとそこでは、通称「ゲーム猿」という男がひとり、調教にいそしんでいた。
調教とはいえ、SMのことではない。馬の調教である。スーパーファミコンのゲームを楽しんでいるのだ。
こんな時間まで、何をやっているのだろう。早く家に帰って勉強しろと言いたくなるが、 あえてそんなことは言わず、適当に言葉を交わす。
実は、この部室にくる前に僕は、ある計画を立案し、実行しようとしていた。
その計画に必要なものは「おかず」だった。オナニーするときに見る女のコの裸が必要だったのだ。
2つ隣にある別の部室には、ふんだんにおかずが存在するのだが、運悪くそこはもう閉まっていた。
いま僕がいる部屋の中には、エマ本はほとんどない。せいぜいおかずになりそうなものと言えば、ヤング系コミックのグラビアくらいだった。
僕は、ある漫画雑誌の中に袋とじでヌードがあったのを思いだし、それを本からちぎりとった。
カバンに入れ、画面を凝視するゲーム猿をしり目に部屋を出る。
いまにも雨が落ちてきそうなほど、空は重く曇っていた。

時間帯のせいで、バスにはOLが多かった。
駅に着く。持っているおかずがあまり良くないので、本屋の手前にやってきたとき迷いが生じた。
ここでいいエマ本を買っていこうか。どうしよう・・・
店内を眺めると、客がたくさんいた。僕は、本をレジに置くときの恥ずかしさを思い出し、 本屋の前を何食わぬ顔で通り過ぎた。
・・・こういう性格。はぁ。
公衆トイレが近づいてきた。ぎりぎりまで迷うが、意を決して中へと入ってゆく。
もし、中に誰かいたらやめよう。誰もいなかったら、そのときはやる。
本当は、あまりしたい気分ではなかったのだ。高まっているわけではなかった。
でも、どうしてもそのまま帰れなくて・・・ノブに手を掛け、白いドアを開けた。 トイレに特有な、香水のにおいが鼻をつく。
中は静まり返っていた。きれいに掃除してあるように見えるが、そのことがいっそう静けさを際だたせていた。
2つある「小部屋」は、ドアが開け広げられていて開放的な感じを漂わせていた。
誰も入ってこないうちに・・・。僕は小部屋へと駆け込んだ。
内側からドアを閉め、カチッとロックをかける。とりあえずは、これで密室になったわけだ。
おかずを取り出したいが、その前にカバンを下ろさなくては何もできない。
ベルトを引っかけるところがないか探したが、あいにくそういう設備はないようだった。
大変嫌な感じだが、床に置くことにした。実際に置いてみると、ますます嫌な感じが高まった。
カバンの中から、部室で手に入れたおかずを取り出す。8ページくらいの袋とじで、携帯には便利かも知れない。
ただし内容は、少年誌のヌードであるから大したことはない。なんとか実用に耐える程度だ。
見るだけで勃つようなものではないので、ズボンのファスナーを開き、中からチン×を引っぱり出してこすり始める。
僕の場合、チン×をこするだけではなかなか高ぶらない。乳首への刺激がどうしても欲しいのだ。
でも今は、左手でおかずを持ちながら、右手でこすっているので空いている手がない。しばらくそのままこすっていたが、 慣れない環境のせいか、全然気持ちよくなれない。
セロテープを持ってきて、壁におかずを貼り付けるのがベストだろう。でも普通そんなものは持ち歩いていない。
苦心の末、トイレットペーパーのケースの上に、なんとかバランスをとっておかずを置くことに成功した。
シャツの下から左手を入れ、乳首を触りながら、亀頭を中心に右手で摩擦を続ける。
「しごく」やり方ではなく、「こする」やり方なので、しゅっしゅっという音がトイレ中に広がる。
誰か来たらどうしようという思いのせいで、右手の動きが心なしか遅くなる。すると快感がとぎれてしまう。 それには我慢できなくて、また右手が早く動き始め、それに伴い音も大きくなる。
ああ、気持ちいい・・・オナニーって本当に気持ちいい。
そう思いかけた途端、密室の外でドアがかすかにきしんだ。誰か入ってきた!
必要以上に驚き、身体が硬直する。その間に足音は近づいてきて、あるところで止まり、そのあと用を足す音が聞こえてきた。
まだ硬直が解けずに、その音を呆然と耳にする僕。そういえば、他人のこういう音を意識して聞くのは初めてかも知れない。 もちろん、男に興味のない僕は、何の興奮も覚えなかったけれども。
その情けない音が止むと、水を流す音が聞こえた。そして蛇口から水が勢いよく流れ出す音がして、足音は遠ざかっていった。
ドアが閉まるのを聞いて、僕はひどくほっとした。
露出プレイを好む人は、こういう感覚を楽しむのかも知れない。だとすれば、僕にはそのような芽はないな、と感じる。
こんなところで、ひとりエッチしているのがばれたら、死んじゃいそうなくらい恥ずかしいから・・・
萎えかけたあそこを、再びこすり始める。しこしこという音が、誰もいない空間を満たしてゆく。
壁を通して、隣の女子トイレから音が聞こえてくる。水を流す音だが、さすがにそれだけでは興奮できない。
僕と同じように、ひとりエッチしている女の人がいたらいいのに・・・ありそうもないことを想像するが、やはり絶対あり得ないと瞬時に悟って落胆する。
と、大声で騒ぎながら子供が2人、バタバタと忙しげに駆け込んできた。かなり幼い子供のようだ。
我慢してきたのだろうか。結局、子供たちが走ってきた理由は察することができなかったが、2人で楽しそうに(?) 騒ぎあっていたのが印象的だった。
対照的に僕は、個室の中でじっと動かない。子供たちが出ていくと、僕はあそこの摩擦を再開したが、それは妙にゆっくりで、常に何者かの 冷たい視線を意識しているようでもあった。
高まらないのはどうしてだろう。おかずが悪いことも原因の一つだろうが、精神的なプレッシャーが大きくのしかかっているのは間違いなかった。
どうして? いったい誰に対するプレッシャーなんだ? 僕は困惑した。
なんだか自分がちょっと嫌になって、僕は乳首を感じるように、ねちゃねちゃ刺激した。誰もいないのをいいことに、あそこも激しくこすり始めた。
あぁぁぁ・・・ 気持ちいい、たまんない・・・
ヌードを見ながら、両手をいやらしく動かす自分の姿は、他人の目にはどのように映るのだろう。・・・!
ふとそのとき、僕の脳裏をいやな考えがかすめた。
僕がここでオナニーできるということは、要するにここでは何をやってもばれないということ。
誰かをここに連れ込んで、悪いことも存分にできそうだ。だとすれば、それを防止するための措置は講じてあるはず・・・
同様に密室になるエレベーターには、必ず監視カメラがついている。それを考えると・・・
僕はあそこを握ったまま、天井を見回した。カメラがあったらどうしよう。僕はあせりながら、それらしきものを探したが見あたらなかった。
よかった。こんな恥ずかしい姿、誰にも見せられないから・・・
でも、よく考えると、こんなところにカメラがあったら、かえって店員の方が悪用しそうだし(特に女子トイレ)、 そもそもプライバシーの観点から考えて、そんなものあるはずがないのだ。
心が平静を失うと、変なことを考えてしまうものである。テスト中も同じこと・・・
さて、このトイレは利用者もそれほど多くないようだし、誰にも見られていないことは分かった。 それなら、もっと集中して気持ちよくなろう。僕はそう決めた。
イクことを目指し、いつもと同じように乳首を愛撫する。変にあせらず、ゆっくりといつもの通りに性感を高めてゆく。
便器をまたぎ、立ったままの姿勢で、真っ黒な学生ズボンから赤ピンク色のチン×を生やし、それをこすり、しごく僕。
制服のままするなんて、生まれて初めての経験だ。それも、こんなところでするなんて・・・
いつも通り過ぎるだけのトイレ。こんなことをする人はおそらく誰もいない。 それなのに、僕は制服のまま、乳首を触って、あそこをしごいて、快感をむさぼっている・・・
本当に、僕って変態なのかもしれない・・・いつでもどこでもエッチなことだけ考えている、変態なのかもしれない・・・
「1Pの世界」をはじめていなかったら、絶対にこんなことはしていないはず。
いつから、こんなにエッチになってしまったんだ? こんなにエッチなことをする高校生に、それもひとりエッチを・・・
亀頭が熱くなってきた。また誰か入ってくるといけない。僕は右手のスピードをあげた。機械的にのぼりつめていく。
床をできるだけ汚さないように、握ったあそこを便器の方に向ける。少し反り気味になったチン×の先っぽは、赤黒く色づいてこわばっている。
頂点が近づく。いつもなら我慢するところだが、止めようとも思わず、イってしまった。

これまでの1P日記では、イクときの描写として必ず「あえぎ声」が入っている。
しかし今回は、実際に「ああああっ!」という感じがなかったので、やはりそういうのを書くわけにはいかない。
チン×の先に、表面張力によってふくらんだまま溜まっている精を、備え付けのトイレットペーパーで拭き取る。
精液はあまり出なかった。出た液の大半は便器の中にちゃぽんと落ちたが、 横にそれたものも見えた気がする。いったいどこにかかったのだろう。
ズボンには付いていなかったので一安心。床をちらっと見てみても、それらしき白濁はなかった。
探せばおそらく見つかったのだろうが、面倒だったので後始末はしないことにした。
使ったトイレットペーパーも、精液も流さずそのままにしておいた。次に入る人はいったいどんな風に思うだろう。
ズボンを上げ、おかずをカバンにしまって個室のドアを開ける。
誰か入ってきたら格好悪いなと思ったが、幸いなことに誰も来なかった。
こうして、僕は何事もなかったように帰りの電車に乗りこんだのである。
OLの生脚と胸のふくらみにひかれて、乗っても意味のない列車に引き寄せられてしまったが、その件についてはここでは割愛する。

たまには部屋を抜け出して、違った場所でオナニーしようと思ってしたのだが、結局あまり気持ちよくなかった。
さまざまな要因があったのだと思う。おかずが良くなかったこと。周囲を気にしすぎたこと。 毎日1〜2回ヌいているので、欲望が溜まっていなかったこと。
もちろん、限界まで溜めこんでからするオナニーは気持ちいいだろうが、寝る前には必ずしたくなるし、しないで寝れば目が覚めることもあるほどに エッチな身体なので、「溜める」という行為は不可能に近い。
“マスターベーション依存症”なのかもしれない。
終わった直後は、もう二度とここではするまいと感じたが、今ではもう一度ちゃんとやってみたい、と思い始めている。
そのときには忘れずに、お気に入りのおかずとセロテープを持っていくことにしよう。
もしかするといつの日か、どこかの街のトイレの中で、あなたは僕の精液に出会うかもしれない。





次を読む  1P日記の目次に戻る