身体はすっかり育ったのに，心はまだ少年の１９歳ハンスが，身体と心で体験する可愛くて痛ましい成長痛に関する物語
▼海辺の小都市で母と二人だけで暮らしているトンイル高校３年のハンス。水泳部で大学進学を左右する全国体育大会の準備が始まった頃，最高のメダル期待の星ハンスは，突然水泳を止めると宣言する。そして,母が飲毒自殺を図ったという知らせがくる。
▼勉強も水泳も他の何もとらえなかったハンスの心は，意識不明の状態に陥った母を見守りながら，ますます行きつくところを探せない。父が誰なのかを知らずに生きてきたし，知らないけど関係ないと信じてきたハンスは，母が残した遺書を通して，始めて父の存在を知るようになる。
▼一人になった家で空虚な気持ちで過ごしたハンスは，隣りに誰かが引っ越してきた日，町内に似合わない美しいピアノの音を聞くようになる。近くの学校の音楽先生イニ。世の中から捨てられた気持ちを，世の中に対する無関心な態度で克服しようと熱心に粘っているハンスにとって，イニは，ほとんど唯一の関心の対象になっていた。
▼ハンスを痛ましく思いながら，やんわりと対してくれるイニにハンスが抱くようになる感情は複雑だ。母の不在による欠乏感と性欲求でいっぱいの１９歳ハンスには，イニは，一度抱かれてみたい，一度寝てみたい相手だ。だだをこねて近寄ってくるハンスの心を憐憫と理解で受け入れながらも，決定的瞬間にはとても冷酷に断るイニのせいでハンスは気が焦る。
▼水泳を継続させようとする水泳部コーチと友人たちの説得，押しかける母の病院費，不便で慣れない父の存在，それらがみんなハンスに解けない数学問題のように積もって行く。しかし，母の病室で会うようになった，自分と同じ境遇の大学生ミジン，そしてイニの養女で同年齢のミンジは，自分たちの問題をそれなりの公式でスイスイと解いていっているように見える。ハンスは，自分が抱えている問題を解きほぐせる公式を捜し出すために，始めて問題と向かい合う勇気を出してみる。
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