子連れ韓国バス旅記(1) “半ズボン”の非常識


『ひっ!ひぇー・・』
それまで、フツーの顔で歩いていたおばちゃんの顔が、いきなり変わるんです・・。目線は、今回の旅の同行者、5歳と2歳の息子の“半ズボン”とそこから出た“足”。まるで、この世のものとは思えない、オソロシーものに遭遇したかのよーに、目を見開き、首を横にこきざみに振り、眉間にしわ寄せて、口を尖らせて、 『んまー!足・・足出しとー!寒かー!』
と(多分)おっしゃてる。向こうは韓国語なんで、正式には分かりませんが、食い入るように子供達の“足”見て、指さしてますから・・。しかし、寒いといっても、ここは韓国のプサン。時は11月始めで、気候的には福岡と似たようなもの。それにしても、ここまで驚かれると、タジタジです。というわけで、5年ぶりの韓国は、半ズボンの波紋?に始まりました。

さて今回は、乗合バスで旅してみようと思っているんです。それと泊まりはホテルでなく韓式旅館で。
実は、プサンには10年前から3年間で10回ぐらい行ってるんです。目的も、食べ物、垢擦り、スキーと色々。いつも日本語がしゃべれる韓国の友人知人、ガイドさんが一緒で、美味しいものを食べ、いいホテルに泊まり、行きたいところにポンポン行ける旅。そんなですから、ふと、乗り合いバスで、しかも子供2人連れて、うろうろしたら、また違う旅になるだろうな、と思って、ですね。

さて、ビートルでプサン港へ到着。お迎えのガイドさんの集団を抜けて、タクシーや観光バスの横を歩いていたら、5メートルほど先で打ち合わせしている2人の男性が目に入りました。そのうちの1人は、黒サングラスに黒革ジャン姿。どことなーく見覚えが、と思うけど、なにしろ相手の“目”が見えないわけで。すると、向こうもジーと私を見てる様子。
「あのーもしかして、金さんじゃないですか? ワタシ、くめです」と。すると、その人物はサングラスをはずし、
「うっわ〜くーめさん!なつかしいですねー。何年ぶりですか?びっくり!しますよー」
11年前脱サラして個人タクシーを始め、ビートル就航の時からずっと、この港でお客さんを待っていた金さん。私と出会った10年前、ダッシュボードの中に、日本語のプリント沢山入れてて、寸暇を惜しんで勉強してました。5年前、生後半年だった長男と友人達と訪れたんですが、その時は居なかったので、かれこれ7年ぶり。しっかし、よー分かったな、と自分でもつくづく。それに金さんも、昔と違ってスッピン顔に子連れですから、あれーと思ったでしょうね。

「私は今日予約入ってますが、仲間に車、頼みましょうか?」「ありがと。でもこれから、地下鉄で沙上に行って、バスで統営という町に行こうと思ってるの」「リョーカイです。ではプサンに戻ったら連絡もらえますか。久しぶりビールでも。絶対ですよ!」
金さんがくれた名刺は新しくなってて、ケータイはもちろんFaxも。裏には、親切に、日本からの電話のかけ方、そして営業案内が記されてました。

次は、金さん以上久しぶりなのが地下鉄、中央洞駅。切符は600ウオン(60円)と700ウオンの2種類で、券売機はハングル表示だけ。そう、韓国って、漢字もアルファベットもほとんどなく、記号のようなハングル文字一色。そっ、私には読めないんです。だから、誰かに聞くわけですが、これがなかなか楽しい。当たりはずれはありますが、一般人との交流ができて。
ところで、ホームに入ってビックリしました。床がピッカピッカなんです。ゴミひとつ落ちてません。で、乗ったら、車内はみんな静かー。まあ、太ったおばちゃん方が、ほんのちょっとのスキマに大きなお尻をねじりいれる姿は、日本より盛んです。それ以外はすっかりスマートな雰囲気。満員の中、声を張り上げる物売りさんや、人をかき分け売りに来る新聞やさんは、もういないのかな・・。などと物寂しく思っていましたら、ある駅で停車中、静寂を破って突如のけたたましいオッサン声! あー、いたー! やっぱこれこそエネルギッシュ韓国!

ところで、半ズボンに対するオモシロ反応は、地下鉄の車内でも、バスターミナルでも、ずうーっと。正真正銘、驚きのマトは半ズボンのようです。他人の足をここまで心配してくれるのは、韓国人の優しさ、なんでしょうね。(続く)