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The list of all Japanese Rush articles

Music Life May, 1981

Interview with Neil Peart by 伊藤政則
 
 

「たぶん、誰一人としてラッシュの本質を知る者はいまい。特に、イギリスのジャーナリストの解釈たるや、実にひどいものだと思うよ。」
 開口一番のニール・パートの言葉は最初のショックだった。この時点で僕は、ラッシュに対してヘヴィ・メタルという言葉を絶対に使うべきじゃないと判断した。

-----日本の早稲田大学に [RUSH's Lyric Society] というラッシュの歌詞研究サークルがあるんです。ラッシュの歌詞を担当するにあなたにとって、実に興味深いことだと思いますが‥‥。

ニール: 恥ずかしいよ(と言って、はにかんで笑う)。でも、やっぱり嬉しいね。実は、僕の妹がやはりカナダの大学にいるんだけど、そこでも僕の歌詞の研究をしているらしい。国文学を専攻しているんだが、教授とゼミを開いていると話していたけど‥‥。

-----ラッシュにおける歌詞の重要性は絶対的なものだと思うんですが、それと共に「西暦2112年」というアルバムの存在ですよね。76年に発表された4作目のこのアルバムの解釈が難しいし、この作品を正しく解釈しないとラッシュというグループを正確に把握できない気がします。

ニール: 「西暦2112年」はラッシュのバイブルだと思っている。まあ、僕らはこのアルバムがデビュー作だと信じているね。それ以前の3枚のアルバムはセールス的にも悪く、僕らは毎日のようにレコード会社からのプレッシャーを受けていた。売れるアルバムを作れ!ってね。この頃、実は解散してしまおうと考えたこともあった。そんな時、僕は一冊の本に出会ったんだ。大学で文学を専攻していて当時は数多い本を読んでいたんだが、SF にも興味があってね。それは Ayn Rand という女流作家が書いた 『Anthem』という本だった。なにか気がついたかな?そう、ラッシュの Anthem レーベルとはこの本がヒントになっている。1938年に彼女が書いたこの本は、個人主義の傾向が強い、彼女の作品の中でも異質なもので、内容はこんな感じだった。
“一人の若者が今まさに終末を迎えようとするある惑星に立つ。彼はこの惑星で自分を表現する方法として音楽を身につける。その音楽は惑星に住む人々の心を捉え、その人々は音楽を知り再建の道を歩もうとする‥‥”
 問題は彼が自己の表現方法を音楽を通じて行おうとしたことだ。ラッシュに欠けていたことをこの本から学びとったのさ。「西暦2112年」のコンセプトはこの『Anthem』を基にして構築されていったんだ。ラッシュの全てはここからスタートした‥‥。

-----「西暦2112年」はスペース・オペラの3部作の出発点とも呼ばれましたが、歌詞の中に登場する太陽系連合のシンボル“レッド・スター”は、結局、ラッシュのロゴ・マークになってしまいましたね?その経緯は?

ニール: <レッド・スター>そして、その前に立ちふさがる裸体の人物。この解釈が重要だ。この<レッド・スター>は単なる太陽系連合のシンボルではないんだ。赤い星、つまり、国旗でもある。たとえば、中国とかソ連のね。つまり、絶対的権力の象徴なんだ。裸体の人物はこの場合、民衆を表現している。権力に対し抵抗する民衆、いわゆる一対の象徴ということだ。さらに、<レッド・スター>はラッシュ自身でもある。裸体の人物はファンだ。いい詩を書かなければならないという圧迫を感じたとき、僕の肩には彼がいる。だから、僕はいい詩が書けるのさ。さらに、<レッド・スター>は悪でもある。その悪が社会に飛び出さないように神が手を広げてくいとめている。<レッド・スター>は常に変貌する一対の象徴と考えて欲しい。

-----知、知らなかった!例えば、「西暦2112年」に続く「フェアウェル・トゥ・キングス」の中で“シグナス X-1 第1巻”という曲を演奏していますが、確か最後が To Be Continued(つづく)になっていた。それは次の作品「神々の戦い」の組曲“シグナス X-1 第2巻”に続くわけですが、この3部作のコンセプトは完全に「西暦2112年」の影響と見ていいのでしょうか?

ニール: “シグナス X-1 第1巻”のレコーディングの途中で、11分たらずではとてもこのコンセプトは表現できないことに気づいたんだ。それで To Be Continued にしたんだが、これが「神々の戦い」のレコーディングに入っても、続くべきコンセプトがまとまらずに僕は悩んでしまった。スタジオの中で僕は自分と戦い続けたけど、こんな僕の姿を見て他のメンバーも一緒に苦しんでいたようだ。レコーディングが始まっているのにまだコンセプトが出来ない、こんなことってあるかい。
 ところが、そんなある日、ウェールズの木々を見ていてふと思ったんだ。この葛藤をそのまま表現したらどうか、ってね。哲学の概念の中に興味深いものがあったのを思い出した。確か、ギリシャ悲劇からの解釈で、人間の知性の分析を古代のギリシャの神にたとえたものさ。それを僕は基盤にして、“天上の神々の戦い”と表現し装飾していったんだ。ジャケットに描かれた大脳は、実はこの“戦いの場”なんだ。天上=大脳、宇宙学の収縮法論とでも言うのだろうか‥‥。しかし、このコンセプトを完成させる間に僕はかなりのパワーを使ってしまった。それは、まるで一つの結論にたどりつこうとする哲学者のようにね。

-----そんなこともあって「パーマネント・ウェイブス」は比較的軽いコンセプトに‥‥

ニール: うーん、精神的にそんな状況になっていたかも知れない。しかし、問題は別にあった。それは僕の内部の変化で‥‥

-----つまり、18世紀文学あるいは SF 文学への興味の変化?

ニール: そう、「神々の戦い」のレコーディングの頃、すでに僕は20世紀のアメリカ文学に対して強い興味を持ち始めていたんだ。18世紀文学は装飾語の宝庫だった。言葉の美学とでも言おうか、一つのことを表現するのに装飾語がたくさん使われ、比喩の表現にも見事なものが数多く存在していたと思う。その影響は「神々の戦い」までで終わった。「パーマネント・ウェイブス」にはストレートな言葉や表現が多く使われているが、それは間違いなくヘミングウェイやスタインベックの影響なんだ。

-----その簡素化はすでに「神々の戦い」の中の“トゥリーズ”にも見受けられたのでは?

ニール: そうだろうか。逆に、あの曲は僕にとって18世紀文学の比喩の最後の究極だったと思う。<オーク>と<カエデ>という2種類の木々を一対の象徴に見たてたんだ。オークをカナダの象徴に、カエデをイギリスの象徴にね(注1)。権力の均衡化というか、イギリスの植民地であったカナダとイギリスの政治的な問題なんだ。しかし、歌詞は単に、オークとカエデのことを歌っているから、そこまで気がつかないのかも知れない。意識的に童話風に仕上げたし‥‥。

-----あなたの詩は常にその裏に潜むなにかを考えなければならない。それは“スピリッツ・オブ・レイディオ”(注2)をなぜシングル・カットしたのかということにもつながってくる。それまではシングルは無縁だったのに。

ニール: そのとおりだ。「パーマネント・ウェイブス」という言葉の裏には、誰かがニュー・ウェイヴへの批判が込められていると語っていたが、そのジャーナリストは何もわかっちゃいない。あれは、そんなイギリスのジャーナリストに向けた批判だったのにね。イギリスの音楽関係のプレスの連中は1週間単位で新聞を作っているから、長期的な展望ができやしない。かわいそうなのはいつもミュージシャンさ。だから、僕はイギリスではインタビューを受けないのさ。“スピリット・オブ・レイディオ”は、僕の住んでいる場所の近くにある本物の放送局の名前なんだ。別に現在の、放送機構を皮肉ったものじゃないよ。確かに問題はあるだろうが、すべては聴き手側の問題だろう。しかし、FM を聴いていると“芸術家達の音楽”はどこに位置すればいいのかという解釈がわからなくなっていくよ。シングル・カットはラッシュの抵抗だったろうね。

-----「パーマネント・ウェイブス」の次の作品はライヴ・アルバムの予定だったはず。でも、スタジオ録音の「ムーヴィング・ピクチャーズ」になってしまったけど?

ニール: 直前までライヴ・アルバムを考えていたのは事実だった。しかし、僕の頭脳は順調に活動していて、ここで休止する必要はないと教えてくれたのさ。別にライヴ・アルバムを発表してアイディアを蓄える必要はないし、それならばこのままスタジオに入ってしまおう、そう考えたんだ。

-----ビルボード誌によると発売前から予想されていて、ニュー・アルバムはベスト10入りは間違いなく、ベスト3入りも可能だとありましたが?

ニール: 嬉しいことだよ。ただ、アメリカの音楽的傾向として、シンプルな音楽が増え、ステージングも実に質素になってきた。その中でラッシュは異質なグループだろうと思う。

-----つまり、ヴィジュアルな視覚体験のグループということですか?

ニール: ライティングは独自に開発したものだし、演奏と並行する後ろのスクリーンのフィルムも画期的だろうと思う。僕は嘘をつきたくないし、自分のやりたいことをストレートに表現したいと思っている。現在のステージングにラッシュとしてのやりたいことが100%表現されているのだし、別に外部からの流行は意識する必要はない。たとえばマサがさっき見たステージ、どうだった?

-----もう最高に素晴らしかった。たぶん、現存するロック・グループの中で最もドラマティックなステージだろうと思います。

ニール: ファンはそう思ってくれている。それでいいんだ。昔、ピンク・フロイドやジェネシスを観て感動したことがあったけど、ラッシュも彼らのように感動を与えるグループになりたかった。

-----しかし、今ではラッシュは彼らを超えていますよ。フロイドもジェネシスも大好きなので客観的に判断できますが、絶対にラッシュのライヴは彼らを超えた。

ニール: ありがとう。ラッシュは常にプログレス(進歩)しているし、それは人間の成長と同じものだと思う。しかし、あと5年後、ラッシュはどうなるだろうか?本気で一作ごとに才能を完全に燃焼させていったら、そんなに続くもんじゃない。少なくとも、僕自身、あと5年が限界じゃないだろうか。1986年、僕はミュージシャンをやめようと思う!

-----えっ、やめる?

ニール: うん、本を書こうと思う。大学で文学を専攻していた頃からの夢だった。ミュージシャンになったのはひとつのステップだと思ったからで、ラッシュでは様々なことを学んでいる。ラッシュにおける歌詞の制作活動は現在の自分にとって最も大切なアプローチだと信じている。小説を書くことは生涯の夢、まだどんな内容の本になるのか決めてはいないが、とにかく、今は僕の身体はラッシュの一部、ラッシュと共に生きている。一つの目標に向かってね。

-----小説家ですか?なるほどあたらしい考えですね(注3)。では、あと5年間、ラッシュはどうなっていくのでしょう?

ニール: ロック・グループとしての究極的な姿に近づいていくだろうね。それはどんな姿なのか今はわからない。ただ、それに向かって全力で進むだけさ。

-----なるほど、わかりました。長い時間、どうもありがとうございました。次は日本で会いましょう。

ニール: OK、ジャンボ機一台分の機材をそのまま持っていくよ。東洋哲学の都、日本にね‥‥。


(注1):“オークをイギリスの象徴に、カエデをカナダの象徴にね”の誤植
(注2):“スピリット・オブ・レイディオ”の誤植
(注3):“あなたらしい考えですね”の誤植と思われる

 
 
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